[  お客様コメント  |   client list  |   sample packages  |   contact us!  |   staff essays  |   local information  ]

<--- Staff Essays
<--- Culture Activities

ティートンバレー 山歩きの一日
三好美祢子
8月19日 

月19日、土曜日。朝8時。晴天で10℃。 外に出してあった車に薄く霜が降りている。絶好の山入り日和だ。紅茶をペットボトルにいれる。クラッカーもポケットに入れ、ハイキングブーツとサンスクリーンを車に入れて出発。目的地は我が家から15分ドライブした場所から入るWind Caveのトレイルだ。

ダービーキャニオンの奥にあるこの洞窟には悲しい歴史がある。女学生のグループが突然の嵐に巻き込まれ、速水に会って多数死亡したのは半世紀前だが、生き残った女学生の一人は孫と毎年このトレイルを歩いて友人たちの霊を弔い続けている。 その孫からお祖母さんを紹介された。白髪で気品に満ちた静かな女性だった。

高山地帯で岩場の多いキャニオンのハイキングは 取り付きやすい登山口であっても、装備は完全でなければならない。頑丈なブーツ、水を吸わないジャケツ、そして余分な食べ物。近辺で雨が降れば速水にさらわれるないように常時逃げ場を心に留めておかねばならない。

この洞窟の上り口の標高は2154m。トレイルは洞窟から更に東に険しい岩場を登り、やがて、ティートン連山の霊峰を南北を走るティートン クレスト トレイルと合流する。 私の目指すWind Caveは登山口から約4km、570mの高度増を数本の滝を見ながら森林やメドウを歩き到達する標高2724mの洞窟だ。片道2時間程度だが洞窟の中は懐中電気で照らしながら散策するので一日は見ておかねばならない。

苔むした倒木や岩を縫って流れる水は澄み 遅咲きの「インディアンの絵の具筆」や「僧侶の頭巾」だの「野兎のベル」だのがひっそりと咲いている岸辺、そしてアスペンや針葉樹の森に包まれたメドウを縫って、大自然が静かに語りかけてくれる。ここは神々が静養に訪れるといわれるティートンバレーの奥地だ。 永遠につながるその語りかけに心を澄ませて全身で聞き取りながら 一歩一歩を歩く。 

そんな時に トレイルの前方で尖った声がした。 女性と男性の争う声だ。 私の姿を見ると争うのを止めるだろうと思って近づいた。 見ると女性はアジア人で40歳前後、男性は40代後半で二人ともリュックを背負っている。 地元にはアジア人は私の他に沖縄出身の落ち着いた女性だけで、道の二人は外部からハイキングに入ってきたのだろう。 あまりにも激しい罵声を大声で浴びせ合わせている。私が近づいても止める気配はない。 傍を通るのも気後れして、私は水辺におりて二人が納まるのを待つことにした。 やがて罵声に混じって叩き合う音が聞こえた。 私は情けなくなって、その場を離れ、もと来た道を引き返し車に入り、気分を落ち着けた。

神聖とも受け止められる霊気に満ちたキャニオンに来てまで、争う二人の行動を神々に謝る気持ちで一杯だった。"この人たちは自分たちが何をしているのか理解してないのです。 どうぞ許してあげてください" 気がつくとこれはキリストが十字架の上で父なる神に祈りかけた言葉だ。 私が情けなくなって祈るのは易しいが、キリストが肉体の極限の苦しみの中でローマの兵隊やユダヤ教の僧侶たちの行動に対して許しを請うのは何という精神力なのだろう! 

このまま家に帰るのは落ち着かず、別のトレイルを歩くことに決めてダービーの北にあるティートンキャニオンに向かう。ティートンキャニオンのトレイル口に着いたのは12時半。入り口の標高は2000m程度。目指すのは"悪魔の階段"という場所だ。このトレイルは なだらかな勾配のメドウを約4キロ程度歩き、更に崖をよじ登るのだが崖では304mの高度を1.4kで登る。名前の所以だ。頂上は2724m。12時半から入るので多分途中で折り返しになる事を承知で歩き始める。今夜は友人を夕食に迎えているので4時には家に帰り着きたい。

悪魔の階段に入らず、そのままメドウを登り続けるとダービーキャニオンと同じくティートンクレストトレイルに合流する。 私は小川に沿って東に歩き始める。なだらかな勾配なので気軽に入れるトレイルだ。 前から降りてきた老夫婦が笑顔で挨拶される。 "疲れすぎないようにね"。 素直に"ハイ。ありがとう"と返事をする。彼らの笑顔に先ほどの汚された気分は吹っ飛び、感謝。清清しい初秋の風に優しく迎えられてメドウの入る。

暫く歩くと5~6才くらいの男の子と若い父親にであった。父親は空っぽの背負い籠を背負っている。男の子は父親の前を陽気に歩いている。 "Brave young man, and BRAVE young father!"と挨拶すると"頂上まで登って来たんだよ"とお父さん。

崖のツヅレ折道は背負い籠に子供をいれて登ったんだろう。登るのは前屈みだけど、降りるのはどうしたのかな。 次に出会ったのは黒いラブラドール犬2頭と歩く女性。1頭は相当年配で口のあたりが白髪になっている。きれいな白い歯を見せて挨拶。

紅葉を始めた草原の小道。早瀬になったり淀んだりする小川を見え隠れにだんだん高度をあげる。4.3k歩いたところで"階段"に向かう小道に到着。 '大変足場が悪く、急勾配なので馬ではいるのは大変危険です'と書いた看板があった。"ひよどり超えのさか落とし"と言うところか! 老紳士が降りてくる。 'この崖を子供を背負って登っていた男性がいたよ。僕なら子供を背負うのは怖いな' '若いので怖さ知らずかな? 私たちも若い時は、そのくらいしたでしょう?'  'う~ん。若いときは仕事でハイキングどころじゃなかったな' 御意! 同年輩の立ち話。 時計は2時をさしている。残念だが今日はこれで折り返し。

我が家に帰り、簡単にカレーライスとサラダを作って友人を待つ。 彼女は世界的に有名なポップフルーティスト。いろんな人生の苦労を克服しながら立派に音楽家として生計を立てている。 独身の55歳。山歩きで精神と体を鍛えている。ティートンバレーでは商工会議所の力強いサポーターの一人。 食後、セーターを着て彼女と玄関先のポーチの椅子に座り、夕陽に映える西の空を愛でながらとっぷりと陽が暮れるまで話し合った。 

素晴らしい環境に包まれて良い友人に恵まれた自分の幸福を噛締める一日だった。

三好美祢子
Director, Wild West Adventures, Inc.
Executive Director, Teton Valley Chamber of Commerce
山口県出身
アメリカ在住 40 年
連絡先: P.O. Box 971 Driggs, ID 83422 U.S.A.
wwa@pdt.net


Copyright © 2005 Wild West Adventures, Inc.